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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「まあ、次郎。おまえは一体どうしたの?」

「お嬢様、……すみません」

「男のくせに……可笑な人……おまえ泣いてるネ、泣いてるネ」

「いいえ、煙いんです、風呂の煙が」

「じゃ、顔をお見せ。……私、どんなに心配していたか分りませんよ、あの騒ぎの晩きりお前は帰って来ないんだもの。……お前が帰らないので、たれよりも一番心配していた者は、この私だということを次郎は知っておいでかえ?」

「え。それはよく、分っています。だから私も毎日この鍛冶小屋で、お嬢さんの事ばかり考えつづけておりました」

「じゃあ、なぜ高麗村へ帰って来ないの」

「…………」

「おまえは、もう奉公がいやになったのかえ? 私のそばに居るのがいやにおなりなのだろう」

「お嬢さん。次郎はお屋敷へ帰れないことをしてしまったんです。あの、石神堂に納めてあった仮面を失くしてしまいました」

「ああ、それで」

「御隠家様の前に合せる顔がないんです」

「いいよ、いいよ。月江がお詫びをして上げるから」

「でも……」

「いいから私と一緒にお帰り」

「行かれません。次郎はどうしても、あの仮面を持たずにお屋敷へは帰れません」

「まあ、強情な次郎だこと」