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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
まさに鋭い刃先が四、五寸、おびやかすように、ズバと目の前に突き出ているのです。と――見つめている間もなく、その冷刀の先が、ギラギラと畳の目へ消え込んでしまう。
万太郎は愕然として、上の夜具を投げました。そして、それを踏んで、次の仕切戸をあけて見ますと、次郎母子は仕事場のそばの床に、何も知らずに寝息をかいている様子。
次に、彼はまた、ガラリッと窓の破れ戸を押し開けました。
サッとはいる風と共に、流れ星が吹き込んで来そうな晩――
じッと耳を澄ますと、何処かをシトシトと歩く人の跫音がするようでもあり、また気のせいかとも思いなされる。
この夜、鍛冶小屋のまわりや床下に、しきりと怪しい物音と気配があったのを、万太郎もうつらうつらと知りつつはありましたが、昼の疲れがいつかしら彼を放胆な眠りに導いて行きました。
あるいは、その疲れが倖せであったかもしれない。
もし、畳の目から顔を出した刀におびやかされて、あわてて外へでも飛び出したものなら最後、そこらの暗に手ぐすね引いていた暗殺の雲霧組の黒衣たちが、一時に魔手をのばして万太郎を膾斬りにしたであろう事は、あながち空想ではなかったでしょう。