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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
そうそう、その中にはまだ相良金吾というやつもいる」
万太郎は髪の毛のそそけ立つような脅迫感をうけました。
前後に暗くそよぐ風も、今は、いつ身をのぞんで来るかわからない白刃が思われまして、さすが自負自尊の念の強い若殿も、そのたびごとに思わず四肢の筋がビクッとするのをいなみ得ません。
次郎も驚いたことでしょう。けだし、次郎の驚きはさまざまであります。
自分の家の、あのきたない鍛冶小屋に泊まって寝た、見ず知らずのおじさんが、彼には雲上の人間のように思われる尾州家の若殿であると知ったのもその一つなら、熱海の湯場で見知っている相良金吾の名を、偶然ここで、雲霧の口から聞いたのも驚きの一つ。
驚きながら高麗村の次郎は、いつのまにかそろそろと草叢から腰を離していました。彼の判断は単純で明快です。世の中の人間を、いい人間と悪い奴との二色に分けている次郎は、直ちに、万太郎をいい方、雲霧を悪い方と鑑別して、梟のような眼玉を剥き、
(この野郎!)
いざといわば、持って構えている胆剌の先で、雲霧の横っ腹を突ッとおしてやろうという物騒な態度に見える。
暗殺といえば不意打ちを原則としているようですが、この場合は違っている。