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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

のみならず、次郎が歯がみをしてムキになってくると、かえってクッと可笑くさえなって、とてもこのチビを斬る力は出そうもありません。

――といって、なかなか味をやるので、放っても置けず、うっかりしてもいられない。

「この餓鬼め!」

彼はもう一度すごい形相を作って見せながら、

「退けッ。退かねえと打ッた斬るぞ」

次郎はビクともするひまもなく、

「なにッ」

と、胆刺の光をよじらせる。

「帰れ、小僧」

「くそうッ、だれが」

「斬られたいか、この刀が目に見えねえか」

「おいらの槍がわからねえか」

「ちッ……」

ここに至って、雲霧も、この足手まといを、どうにかしなければならなくなりました。

否、どうにかしなければならない機会は、また別の方からも起って来ている。――というのは折悪くちょうどその時、一方の道から篠や草叢を分けて、

じゃらん、じゃらん、じゃらん……

数頭の馬の鈴、賑やかな話し声、そして八王子組の駅伝問屋の提灯が七ツ八ツ。

――雲霧はいきなり次郎の手元へ飛びつき、かれの襟がみを引ッつかみました。次郎の胆刺は二度三度空を突いて、雲霧の左の小脇に抱え込まれる。

得物を奪られまいとして、次郎が必死の力を野槍の柄にしぼッた途端、五臓のちぢみ上がるような声と一緒に、次郎の体は雲霧の肩に乗せられて、いやという程投げつけられました。