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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「これを私が着るのかい」
使いは変な顔をして、
「左様でございましょうと思いますが……」
「派手だねエ」
「舞台でござんすもの」
「気まりが悪いよ、こんな年をして」
「御冗談ばッかり。……それから紋でございますが、御相談なしに、揚羽蝶としておきましたが」
「あ、それは鷹の羽にかえてもらいたいね」
「鷹の羽ですッて」
「いけないかえ?」
衣裳屋は吹き出しそうになって、
「太夫さんが鷹の羽はヘンでげしょう。お侍か何ぞのようで、どうにも、うつりが悪うございますよ。蝶がいけなければ、重ね扇か鶴の丸、桔梗菱なんぞは、お嫌いでございますかな」
「やっぱり鷹の羽にして欲しいんだがね」
「へえ。ははあ。さては……でございますね。成程、それじゃぜひ鷹の羽でなけりゃあいけますまい、だが、まさか浅野内匠頭のとおりでも困りますから、何とか鷹の羽をくずして優しくして置きましょう」
衣裳屋の使いが帰ると、入れ代りに髪結が来る。お粂もなかなか多忙です。
その髪でも、お粂の気持と髪結の注文が合わないで一もめもめました。お粂としては銀杏返しか松葉くずしにでも渋く結うつもりでいたのが、髪結は反対して、
「それじゃ、まるで年増に見えてしまいます、浅黄繻子や濃い化粧にうつりよくするにゃ、どうしても、こう来なくッちゃなりません」