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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
三ヵ所の短刀傷もほとんど癒えて、もう立ち居になんの不自由も感じなくなると、そろそろ七男坊の駄々振りがあらわれて、
「次郎、おやじが居たら、ちょっと参るようにいってこい」
と、ある日、彼のことばです。
次郎は心得て、上屋敷の用人部屋へずかずかとやって来て、そこの入口から大きな声で、
「御用人様!」
「おい」
と、びっくりしたように、そこで居眠りをしていた用人の伝内、
「やあ、万太郎様の僕、次郎さんか。何じゃ! 何の御用じゃ」
「おやじは居ますか」
「おやじ?」
「ウム」
「おやじとはたれのことで」
「おやじといえば、ここのおやじ。それ、いつも、こういうふうにシャチコ張っている、曾根権太夫という人のことさ」
「これは怪しからん、かりそめにも、秋元六万石の御家老をさして、おやじなどと申すと口が曲がるぞ」
「でも、万太郎様が、おやじをすぐに呼んで来いといったんです」
「御家老はまだお城からお退がりになりません。御用があったら、この伝内が参って伺いましょう」
「駄目駄目、お前さんじゃいけない」
「なぜ手前ではいけないのか」
「万太郎様は、伝内さんがお嫌いです。あの河豚のような面をした、用人の河豚内が給仕にまいると、御飯もまずいといっています」