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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

と、まるで田楽茶屋の暖簾でも潜ッて入るような調子で、万太郎は釘勘を連れて奥の客間へ通り、次郎はまた次郎で、拭きみがいてある大廊下へ、ベタベタと大きな足跡をつけて行きます。

奥へ通った万太郎と釘勘は、そこで、夜のふけるまで種々の話が尽きない。

熱海の湯前神社で出会った時の相良金吾のことばが、そッくり釘勘の口から万太郎に伝えられたことも言うまでもありません。

「そうだろう」

万太郎はすべてを善意に聞きました。そして、自分に反いて帰らぬ彼の心情を察して、

「こうなった以上、金吾の気質としても、何か一分を立てぬうちは、わしの側へ帰るまい。人に合わせる顔がないと申して、それから先、また姿を隠したあれの気持は分っている」

むしろ彼は、金吾の行為に、憐愍と同情をもって、釘勘の便りを逐一聞き終ったのです。

「ところで、そのかんじんな仮面の事になりますが――」と、釘勘はここで話頭をかえて、

「妙な方角から、思いがけない手懸りがつきまして、近いうちには、きっと、お手元に戻るだろうと存じます」

「いや、その仮面の手懸りなら、実はこの万太郎も目星をつけている所があるのじゃ」

「へえ、じゃ、あまり商売人の早耳も、自慢にはなりません」