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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「そうでもなくッちゃ助からねえ」

「だれか、駕を頼んでおくれな。川辰まで」

川辰とは、城下で一流の料亭です。あぶなく死人を戸板で出すところを、吉凶転じて大変な景気。

一座こぞって川辰へ乗りこみました。

そこへ太夫元や何やかが見舞に来る。そして来たほどの者が、すべて事の真相が反対なのに驚き呆れない者はない。

それでもまだ川越の城下では、曲独楽の嵐粂吉が舞台で倒れたという評判が大袈裟にひろがって、何処もかしこも、その噂ばかりを耳にするくらいだとは、駆けつけて来た一人の男の話です。

それは二階の大広間のこと、階下ではべつに小座敷を取って、一座の者とわかれて飲んでいた最前の総髪と伝法肌が、

「なあ、伊兵衛、今夜の狂言は首尾よく当ッたな」

「あんまりうまく行き過ぎてやがる。お粂のやつも運がいいや、あれが一本、顔の真ン中にでも当ッて見ねえ」

「事だな、あははは」

「あの騒ぎが本物になるところだ」

「こうなると、やっぱり、馬春堂先生の易断も、ちょっと端倪すべからざるものだろう。おほん」

タンゲイの語意が、伊兵衛には素直にのみこめなかったものですから、話はとぎれて、盃に手が出る。