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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

そこへ、お蝶は足を止めました。

実はもう足もかなり疲れたので、この経塚に夜を明かし、また明日の夜を待ちたいのですが、こんな所では昼の眠りも食べ物も求められないし……。

まあ少し休んで、夜の白む頃までに、甘酒茶屋のある所まで行き着こう。あすこには、気の好い老夫婦が褄んでいるということ。そこならば、充分、明日の昼は休むことができる。

「それにしても、その甘酒茶屋まで、もう何丁あるのかしら……?」

堂の縁に腰を下して、上の方を振仰ぎました時、何かパラパラと彼女の顔に音がしました。――仮面を打った松のしずくです。

仮面はとにかく、髪のぬれるのを気づかって、お蝶はふとそこに落ちてあった、幕のような、白い布を頭からすッぽりと被りました。

被ってみると、それは、堂の扉代りに村人が作ったものでしょう、千魂塚と書いてある白麻の帳。

千魂塚――

墨黒く、筆太くそう書いてある。三ツの大字が、あざやかな模様の如く、般若の頭から肩にかけてタラリと被さりました。

すると――その時、何処かでガサゴソと木を分けて来る人の跫音がする。般若はキッと耳を澄まして、明らかにそれを、

三、四人の人声と知った様子です。