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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ウム、そこで三人が、ちょっとおどし文句をならべて、そろそろ側へ寄って行ったが、返辞もしなければ、逃げもしねえ、おや、こいつは、年にしては……と飛びつくと、どうだろう……」
「どうした?」
「ゲラゲラッと笑ったものだ」
「えっ、笑った?」
「あら、くすぐッたい――、そう言ったような気がしたので、ヒョイと娘の顔を見ると、真ッ青なんだ、その顔がよ。――口は耳まで裂けているし、眼は百錬の鏡というやつ、おまけに被っていた布の下に、きッと二本の角のようなものが……」
こう明々とした点し灯と人のなかで話していると、話している当人も、実際に出会った時のせつな程の恐怖は消えてしまいましたが、ことばは心と反対に、そのいかにすごかったかを誇張する。
すると、片隅に菰を敷いて寝ていたひとりの白衣の男が、手枕を上げて、むっくりと起きかけました。
ふと、身を起こしかけて、そら寝入りをしていたその男は、千魂塚から飛んで来たならず者どもがあまり自慢にもならないしくじりを、さも怪奇きわまる事のように喋々と皆に話しているのを、ひとり注意深く聞いていました。
で、三人の遭遇談が片づくと、後はそれに対して、一座まちまちな観察や批評が出初めます。