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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

で、まったく、この空気がうごくことは絶望です。

どうなる事か、精と根気にまかせて、暫くはその成行きを傍観しているよりほかに、連れの先生金右衛門にも、まったく、咄嗟にいい智慧もうかばない。

そのうちに、眉毛もうごかさずにらみくらしていた日本左衛門が、擽られたように、突然、大口を開いて、

「わははははははは」

と、哄笑しました。

どッかりと足元の岩に腰をおろすや、手にしていた煙管をさし向けて、

「おい若造!」と金吾にいうのです――

「まアそこに腰を下ろしねえ。変なところで会ったものだが、生憎と、この辺りには御挨拶を受けに行く橋も見当らない。少しばかり、沓の上から痒いところを掻く気もするが、千鳥ヶ浜の時から一別以来、まんざら素気なく別れたものでもなかろう、何か変った世間話でも聞かしてくれねえか」

あたかも辺りにある岸々たる岩のごとく、金吾を青二才あつかいに睥睨している口吻です。

むかッとしましたが、相良金吾にも、手を下してゆく方法はない。

逸早く、冷然と平静に回って見せた相手の前で、及びもない歯ぎしりをいつまでかんでいるのは、一層かれの侮辱をまねくところであるくらいなことは、金吾としても気づいています。