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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「卑怯者、逃げるなッ」

激流の音をもひそめさせるような、金吾が声のあらん限りに、

「なにッ?」

と、振顧った日本左衛門が、みなぎる冷嘲を編笠のうちに、

「逃げるとは、なんの寝言だ」

「では、なぜ待たぬ!」

「待つ弱みはない」

「卑怯だ。逃げ口上!」

「だまれ。ならば、こッちへ渡って来るか」

「ウウム」と、金吾はいいづまりましたが、

「この上流に行けば、石を伝って、自由に越えられる所がある。そこまで歩け」

「オオ、上流の方なら、どうせこッちも足を向けてゆく先、そこまで行ってやってもいいが、しかし……金吾、あの時のままの腕では、おれに刃を立てるのも覚束ねえこと。返り討ちは合点か」

「だまれ」

金吾はいよいよ烈火になって、

「その広言は後で申せ」と、流れの上へ向って大股に歩み出します。

対岸の日本左衛門も金右衛門と共に、岩を避けて進みながら、

「よし、それ程死神につかれているなら、望みにまかせて討ってやろう。……だが金吾」

「多言は無用、あとのことばはこの流れを越えた上で聞こう」

「急くな、まあ聞け、――一体汝はこの日本左衛門に、何の怨みをもってそう食ッてかかるのだ」

「盗人の白々しさ。