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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「どうも、お気の毒でございますが、枝珊瑚というやつは、珠にも粒にもならない屑で、白ぼけや虫くいなどを、ろくでもない飾り物などにいたしますンで……。へへへ、どちらへお持ちになりましても、とても、お値段にはなりませんです」
「ですが……」と、娘もその時は、だいぶ度胸がすわって来たものでしょう、押し返して、彫のふかい面だちを真面に白くふり向けて、
「見るだけでも、見て下さいませんか」
「へい、そりゃもう」
「自分では、たしかな、古渡りだとぞんじますから」
「え、古渡り?」
カチッ……と奥で火打が鳴ったのはその時で、いつか、暖簾の内は外より早く日が暮れている。
中仕切のさん格子に、ゆらゆらと黄色い明りがさしたので、娘の目も初めて影法師に知ったでしょう。四ツ目屋の奥には、最前から物音もさせずに、まだほかの男がいた気配であります。
小判で百両。
重目にしてもだいぶなものです。
異様な娘が、それを赤い帯あげの中にくるみ込んで、宵の町角を雷門の方へ出てゆくと、あとの四ツ目屋も戸をおろして、しとみ障子のうす明りに、「御小間物類」という字ばかりが往来に残っている。
シンとなると、裏にも表にも、落葉のあるく音がします。