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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

閑にして不善をなす。

されば、山屋敷の内部では、仲間やこんな娘までが、同心の目を盗んで、昼中、牡丹畑の霜よけにかくれて、甘い恋など囁こうというものでしょう。

「龍さん」

お蝶は、男にもたれて、

「私に話って……なんなの?」

とろけそうな媚を目じりに流しました。

おや、その眸には特徴がある。

いつか、浅草の四ツ目屋へ、珊瑚を売りにきた、紫頭巾の娘の目です。

お蝶が、敷いている藁を一本抜いて、白い指先に巻いて、弄びながら、

「え、どういう話?」

と、生真面目になってのぞきこむと、龍平は、わざとらしく横鬢をかいて、

「それが、ちょっと、言い難いことなのさ」

「なぜ?」

「たびたびだからなあ」

「じゃ、またお金のことなの」

「まあ、そんな見当だな。どうしてもまた、五十両ばかり要ることができちゃって、暮じゃああるし、弱ってるんだ」

膝ッ子へ、がっくりと額をつける。

お蝶の眉が少し曇りました。

日向ぼッこの幻滅――恋には苦いものがつきものとみえます。

だが、この娘も酔狂ではあるまいか。十人並以上の容貌をもって、何を苦しんで山屋敷の仲間ずれを恋の相手に選んで、無心などを吹っかけられているのだ。