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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

耐えられなくなって、窓の雨戸を開けますと、カッと、眼のくらみそうな日光が、寝起きのあぶら顔へ容赦なく照りつけます。

「おや、もう午ごろじゃないか。――久助さん、久助さん」

少しあわてて呼び起こしましたが、返辞がないので、境のふすまを細目に開けてみますと、その部屋は、閾際から枕元へかけて、ぶちまけたように一面の血汐です。

駆け戻って、奥をのぞくと、そこにも、ゆうべの内儀が夜具のなかにことぎれている。

お蝶は、いったん明けかけた窓の戸をピッシャリとしめて、よろよろと蚊帳の裾に腰をついてしまったのです。そして、茫となった彼女のひとみは、目の前の有明行燈に、こんな文字が書かれてあるのを、読む気力もなく見つめました。

お蝶に告げおくこと。

お蝶よ。

きょうは何処かにて必ずおんみに会うであろう。化粧をととのえて待て。身もたのしみに待つ。

日本左衛門

柳沢吉保

「仁三じゃねえか、そこへ行くなあ。――おお仁三だ、雲霧の兄い」

と、西瓜のたねをホキだしながら、あわてて呼んだ者があります。

なまこ塀の多い横丁のつきあたりには、たたえたような青い水と巨大な石垣がふさいでいました。