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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
思わずそこを立ちました。
金吾が歩み出すと、彼はまた振顧って、
「ところで、どこに致しましょうか」
だまって尾いて来いといいながら、あてもないような口ぶりです。金吾はいよいよ曲者に二重三重の策があるにちがいないと睨んで、
「そちのたくらんでいる墜とし穴へ行こうではないか」
わざと冷言を放ってみました。
九兵衛は深い皺をつくって、
「なかなかあなたは要心ぶかい」
「ふん……」
笑ってみせると、思い出したように、ぽんと膝をたたきながら、
「時に、お腹はいかがですか。どこかで飯でもたべながら話すことにしようじゃございませんか」
「ひまどってはいられぬ体だ。ことに今の場合、安閑と食事どころの沙汰ではない」
「でも、もう午すぎ、今朝はしかも城下はずれの宿を早くお立ちになったあなたです。今までの間に餅ひと切れ食べていないことは目付役の九兵衛がよくぞんじています。まあどのみち食わずに馳け廻れるものじゃありませんから、どこかで弁当をつめこむといたしましょう。うム、お諏訪様の裏に静かで女の居ない昼食屋がございます、そこへおいでなすって下さい、なあに、そんなに遠かアありません」