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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

これには、遊びに夢中でいたお粂のあたまも、はッと水を浴びたようにさめました。――騒ぎはそれからで、風呂に出かけた女弟子たちを呼びもどすやら、二階にいる男に来てもらうやら、何しろ、その金は、座員の生活費であり、先へ旅立つ路銀でありするのですから、お粂の当惑のみならず、嵐一座の死活問題であります。

「そういえば、伊兵衛さんと先生はどうしたろう?」

「お。あの二人が影を見せない」

そのうちに、たれかがこういい出したことによって、たった今まで、その二人が上がり口で昼寝をしていたと分りましたから、

「もしや?」

とお粂が戸棚の隅々をあらためてみると、馬春堂の浴衣やら伊兵衛の衣類などがまるめてあって、笠や何かの旅支度が、ちゃんと二人前だけ減っています。

さては、飼犬に手を噛まれたのか。――持ち逃げの下手人はボロ易者と道中師。

そんなものを楽屋に飼っておいたから悪いのだと、お粂はあきらめをつけましたが、あきらめないのは飯を奪われた一座の者です。「それ、今逃げたばかりだッていうから、二人のやつを追いかけて取り返せ」

と、手分けにかかって、飛び出しました。

折も折です。