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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「ぜひ、ききいれてもらわねばならぬ」

「やぼじゃありませんか」

お粂は団扇を軽くうごかして、

「二人の仲に、改めてなんて水ッぽいものはないはずです。尤もあなたの方じゃ気が変って一時私を捨てたでしょうがね」

「では、きっと承知だな」

と、不意に金吾は女の腕くびをつかんで置きました。

「まあとにかく、話のすじを聞かしてくださいな」

「ウム、ほかでもない、お前の命をもらいに来たのだ」

「なんですッて」

「命をもらいに来た! それだけで、もう拙者の心は読めているはず。過ぎ去った愚痴をくり返してもしかたがあるまい」

「相良さん、じゃお前さんは、私へ恩を仇にして返すんだね」

「恩を」

「そうじゃありませんか、聖天の黒髪堂で、あなたを助けたのはたれですか」

「言うな、それは」

「いいえ、それから先の看病まで、親身になってつくしたのはたれですえ。……わ、わたしはそのために、日本左衛門という世話になった男を捨ててまで、あなたに女の生涯をみつぎこんだつもりですのに」

臙脂の唇はその毒をかくして、かえって男の心を綿々と怨んでやみません。

毒婦め!

今はあの時の金吾ではないぞ。

心で叱咤しながら、彼は、お粂のきき腕をひき寄せて、