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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

――さてまた、諏訪の森を去った黒衣のものたちは、その頃、わざと人目にかからないように、石和街道の歩きよい所を避けて、畑道を迂回しながら、鍋屋小路の角にその影を見せました。

そして、お粂の留守をうかがって、あの家の裏手からそッと足音をしのばせて集まる。

案内はこの家の裏に夕刻姿をみせた例の屑屋が万端呑みこんでいる様子。

でも、念のためにと、水口の戸に耳をつけて、ジッと気配をみましたが、まず、あれから格別なんの変化もないあんばいです。

「兄貴」

「う? ……」

顔を寄せたのは千束の稲吉でしょう、何かささやき合っていると、うなずいて、そのささやきを黒衣の仲間に伝えています。

スーと、音もなく一方の雨戸が開かりますと、吸われるように、稲吉をはじめ黒衣の影が一つ一つ家のなかにかくれました。

留守とはいえ、まるで留守ともいえません。

そこには相良金吾が眠っている。

だが、金吾が居るとて、べつに臆する必要もありません、かれは、魔薬の悪睡に落ちて、おそらくはこの物音に醒める知覚もありますまい。

忍び込んだいくつもの黒衣の影は、陰森とした屋内の暗やみを探って、金吾が眠り落ちている一間のまわりへスルスルと這い寄りました。