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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

そして、思い出したように、

「もう帰って来そうなものだな」

「使いにやった、寺男か」

「ウム、八助のやつ、何をしていやがるのだろう」

「大丈夫か、あの男は」

「その方は心配はないよ。おれが手もとに置いて使っているやつだ」

「でも兇状のかるいやつは、それを帳消しにするつもりで、仲間を裏切ることがあるものだからな」

「ちょっと、おれが、見て来よう」

「まあいい。間違った時にはそれまでのことだ」

「なに、そこらの居酒屋で、道草を食っているのかも知れないから、ちょっとおれが迎えに行って見る」

不恰好の下駄をはいて、法達の姿がそこの縁先から消えると、日本左衛門はただひとりで、寂とした方丈のなかに坐ったまま、何か考えこむように、左の掌へかろいこぶしをくり返している。

「まずい……」

胸にうかび出る考えを、自分で否定するようにつぶやいて、

「やはり、お蝶のやつを殺してしまってはまずい……。と言って? ……」

その時、

法達の木履の音が、折返して少し小きざみに飛石を歩いて来ましたので、庭の植込みをさしのぞくと、

「お、兄貴」

と、笠をぬぎながら縁先へ腰かけた男があります。

見ると、それは法達がさがしに出た寺男ではなく老賊秦野屋九兵衛です。