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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「そうよ、油断は禁物だ。それについて、何よりも心配なのは、親分の身だが」
「秦野屋、てめえは親分に逢って来たのか」
「今も今とて、この甲州から足を抜くようにといさめて来たところだが、そういうとあの気性で、頑として聞き入れてはくれねえし……」
「そして、そのかくれている場所は」
「きのうから鼻寺の方丈に居るのだが、何しろ、あの和尚の法達というやつは、悪党仲間でも腹の知れねえ人間だから、いつ寝返りを打って、役人の方へ親分を売り込まねえとも限らない」
「じゃ、おれも早速行って、よく親分の胸を聞いてみよう」
「今夜は法達と飲んでいて、すこし機嫌のわるい様子だから、あしたの晩にしたらどうだ。おれも、もういちど親分に会って意見を言ってみるつもりだ」
「じゃ、そうするとして――ほかの者は」
「ついでに、雲霧や千束も誘いあわせれば何よりもいい都合だがな」
「じゃ、二人の方へも、おれから合図をしておくから、御苦労だが、兄貴もあしたの晩は出ばってくれるだろうな」
「そう顔がそろうなら、何を措いても行くことにしよう。だが四ツ目屋、おめえお粂のうちで今夜稲吉が飛んだ目にあったのを知っているか」