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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

と帳場へよぶと、蚊帳をつるのを待っている様子な脛の黒い飛脚男が、

「店の者はみんな寝たよ」

「じゃ、すみませんが、こいつをひとつ」

「飛脚賃はそこに貼り出してあるから、それだけの銭を置いて、帳場の上へ乗せといておくんなさい」

「ところがひどく急用なんて、ぜひとも、今夜のうちにお願いいたしたいのですが」

「だっておめえ、飛脚組は六刻仕舞いときまっているのに、そんな無理を言ったってだめだ」

「なに、遠方じゃございません、御城下のうちでございますから」

「それにしても、店が仕舞ったところだからな」

「そこを一つお頼み申します。飛脚賃は何ほどでもいといません、あいにくと、こまかいのがございませんから、これだけお使いの方に上げて下さいますように」

二分銀でも出すことかと思うと、目を射るような小判を一枚、三通の手紙の上に乗せました。

寝巻を着かえていた飛脚男も、月の給料にもあたる小判を見ては、このまま寝るのが冥利がわるくなって、店へは自分のふところから規定の飛脚料を出し、

「ようがす、じゃ私が一ッ走り参りましょう」

早くも足ごしらえや支度にかかって、早速にこの用達をひきうけたのは、何といっても金の力。