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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「まあ、いやだ、気味のわるい人!」

飛び退こうとすると、かの女の袖は、鉄窓にからんでいました。

「離して! わたしには、ほかにも急ぎの用があるんですからネ」

「気味がわるいことはない、私は神の僕です。ころびばてれんのお前の父親とはわけが違う」

「大きなお世話じゃないか」

「お気の毒な、さだめし、二官殿は良心に責められておいでだろう」

「うらやましかったら、お前さんも早くころんで、牢から出してもらえばいいのに」

「はははは……」

あたりを忘れて笑ったが、ふと、改まって、

「私の国も羅馬。そなたの父親も故郷は羅馬。ふたりは、同じ国の同じ都の人間です。お蝶さんは、それを知っていますか」

「そんなこと、聞かなくッても分っている」

「じゃ……二官殿が日本へ来たほんとの理由を聞いておいでかな?」

「? ……」

「日本は禁教の国、徳川家では、海をこえて来た異国人と見れば、すぐ捕えずにはおかない。そんな危険を承知しながら、なんで、私がまた二官殿のあとから羅馬を立って来たか、そこに深い秘密がなくては……」

「離して下さいよッ」

じれッたそうに袖を引いてうしろを見ました。

そこには、いつのまにか、土蔵の方で待ちぼけを食って、たずねて来た仲間の龍平。