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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

そのときくわしい話をします。……鼻寺ですよ。……鼻。鼻。……いいえ、顔の鼻」

と、思わず自分の鼻をおさえて、九兵衛はひとりでおかしがりました。

しかし、もし笑い声がきこえて、戯れと思われては大変と、なおもよく念を押してから、

「金吾様、まちがいなくお出かけ下さいよ。ただし、人目にふれるといけませんから、例の白い行者ごしらえはやめてください。そして、鼻寺の山門から、ズッと離れたところで待っていておくんなさい」

「おう、心得た」

「これで安心した。あとはあしたの仕事、夜が白むまで、おやじもここで一寝入りいたします」

「そこで?」

「自慢にはなりませんが、何処でも寝られる修行がついておりますから」

「では、拙者もここの明りを消そうか」

「どうかそう願いたいもんで」

「九兵衛。よろしいぞ、やすむがいい」

「へい。おやすみ……」

やけのやん八

お粂は朝酒に酔っていました。

その朝酒も、目元を上気させて口三味線でも出るような調子ならば結構ですが、今朝のはすこし酔い方がわるい。

「なんだって、災難は災難としても小屋だけは勤めてくれなければ困る? ふウン、そりゃ他人の災難だから、そちら様は痛くも痒くもないだろうけれど、芸人が気が腐ったひには慾にも得にも舞台には立てませんよ。