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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
それはまた何かといえば、皆、はるばる海をこえて、羅馬の府や、スペインや南蛮諸国から、日本へ布教の目的で来て、かえって法度にふれて片ッ端から殺された多くのバテレン達の――その所持品であり、着衣であり、祭器、書籍などという類の遺品であります。
されば、中には、当時の江戸ではまだ見たこともない、白金や宝石や異国の七宝珍貴な物が、あるべかざらざる所にあるわけでありますが、慾には抜け目ないはずの要路の役人どもが、それを埃に埋めて顧みないのは、幕府の人も、邪宗門といえば、絶対に忌むからで、まして、バテレン達の遺品とあれば手も触れようとはしない。
だが、龍平にはそんなことは、決しておかまいないことで、お蝶とても、父の手伝いにここへ入って、初めてそれを見つけた時には、
「まア、勿体ない」
と、むらむらとしていたくらいなものです。
「――お蝶さん、見張りを頼むぜ」
龍平は、鍵をうけ取ると、五、六段ほど石段を上って、戸前へかかる。
「あ、早く……」
と、お蝶はそれに応じて、小走りに土蔵の裏がわをのぞいて来て、
「大丈夫……今のうちだよ」
「ウム!」
と言うと、龍平の両手は、ガチリ、ガチリ、と大きな錠前にふれておりましたが、その時、土蔵の横の網窓に、うッすらと中から不可解な光線がゆらめいていたのを二人とも知りません。