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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「でも、万一若様に、まちがいでもありましては、この釘勘が、後日申しわけが立ちませぬ」

と言うと、万太郎は、いやが上に、かんしゃくを起こして、

「ばか、ばか。このような場合に、私を足手まといにしているやつがあるか。見くびるな、この徳川万太郎を! 万太郎だからとて、火や剣をおそれはしない。鼠賊の一人や二人、斬ッてすてるに何の造作があるか。――お前は裏山の方をさがしてみろ。わしは、炎をくぐって、この本堂のなかを見届けてみる」

と、意気軒昂です。

さあその調子ですから、釘勘は、なんとも、ハラハラさせられて、この人のそばを離れることができません。

やや説きおくれておりますが、万太郎と釘勘が、柳沢家の捕手をかりて、ここへ襲撃して来たことは、相当な筋道のあることで、決して偶然ではありません。

二、三日前から、鼻寺の附近には、充分、さぐりがはいっていました。ですが、一挙に今夜の決行をうながしたのは、前夜、しかも深更になって、柳沢家の甲府町方役宅へ、徳川万太郎宛にとどいた、無名の飛脚からです。

深更をおどろかした手紙は、それより少し前の時刻に、町の飛脚屋を叩き起して、かの秦野屋九兵衛が投じたものであることは、かさねて、説明に及びますまい。