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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「わしは考えておる。だれか、狛家に遺恨をもつ者に、殺められたのではあるまいかと」

「おめおめと、そんな策にかかる、お嬢様でもございませぬ」

「では、甘言をもって、かどわかされたか」

「それとしても、何か、便りぐらいは聞こえそうなものと存じますが」

「そうだの、生きたか死んだか、風の知らせぐらいはあってもいい。それが、これほど手をつくしても、行方も知れねば安否も知れぬ」

「さかしい振りをするようでございますが、おりんが考えますには、これはきっと、お嬢様の御気性から、次郎殿をさがしにおいでになったに違いないと存じます」

「次郎をさがしに?」

「はい。お嬢様は、次郎殿がお屋敷から見えなくなったことを、たいそう悲しんでおいでなさいましたから」

「浅慮なやつじゃ」

老人の顔には、ひとりの愛娘を思いやる愛着と怒りとが、抑えがたなく見られます。

おりんは、千蛾老人のその苦悩に、心から同情をよせている。ほんとに今の御隠家様としては、月江様ひとりをこの世の楽しみとしていらっしゃる。その月江様にもしもの事があったら、このお方のあらゆる希望は霧のように散ってしまう。

今はすこやかでお美しいが、やがて良人をもつ年齢になると、必ず若くして死ぬという怖ろしい遺伝の血筋を断とうとして、幾年か御隠家様が苦しまれたのも、月江様が可愛いため、――そうして