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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
その手懸りにあったのであります。
けれど。
それは見事な失敗に終って、
「こいつらにも、無駄骨を折らせて気の毒だった」
と思うままに、今、実相の一端を洩らしたのでありましょうが、意外にも、かれが話し終ると共に、
「はてね? ……親分、私はそれと同じ話をツイ四、五日前にもよそで聞きましたが……」という者が出てきました。
日本左衛門には意外でありました。
夜光の短刀の秘密こそは、まだ自分と、先生金右衛門を頭にいただく抜け買い仲間の一部のほかには、こんりんざい、他に詳しいことを知っている者はないはず。
手下の前で、今、その一端をもらしたのも実に初めてであるのに、それをもう他所で聞いた者がいるとは、いかに、耳や勘の異常に発達した社会とはいえ、かれにしても驚かされたのでしょう。
うっすらと眉間に色をなして、
「だれだ? そう言うのは」
声の主を物色すると、
「へい」
と、うずくまった黒衣のうちから、ひとり、神妙に存在を申し出る答えがありました。
「ウム、てめえは率八だな」
「へい」
再度こう返事をしたのは、お人好しの率八と通称のある小泥棒。
盗賊の中に籍を置いていて、それで、お人好しもないように聞こえますが、この黒い連中もこれで一社会をなしている以上、やはりその粒のうちにも、おのずから善と悪があり、義と不義があり、固い性質と