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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「何しろ、尾州様の御秘蔵仮面、万太郎様からくれぐれもお頼みをうけて来た大事な品、市ヶ谷の上屋敷とやらへお届け申してあげるまでは、おまえに大変な責任があるのですよ」
「分っております。ですから顔から離しません。早く高麗村へ帰って、御隠家様にこれを見せ、次郎の粗相をおわびした上に、改めてお暇をいただいて江戸の尾州様へこれを届けるつもりです」
「ほんとに、早くそうして上げなければ、万太郎様の御好意に対してすまないわけ」
「いつかあの人が鍛冶小屋へ泊った時、おいらと約束したことを忘れないで、わざわざ小仏までこれを持って来て、次郎よ、仮面が手にはいったから、おまえはこれをもって主人のわびをかなえてもらえ――こう仰っしゃって下さいました」
「お……河原へ出て来たね」
「熊川の岸でございますよ。ここを越えると拝島の裾でしょう」
川幅はかなりありますが、水は浅く、裾をくくり上げてジャブジャブと渡渉するには手頃な流れです。
月江が草履をぬいで着物の裾を折りかけると、
「お嬢様、おぶってあげましょうか」
と、野槍を杖に、次郎が背なかを向けました。
ちょうど、時刻にするとその頃でした。