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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

もっと、この川幅が広ければ――と胸にうずいているらしいのです。

ふざけているうちに、遂に次郎は手をはずして、月江を水へ落としました。しかし、岸は近いし水も浅い所なので、二人濡れもせず、石を投げられた鶺鴒みたいに、パッと向う岸へ飛び上がって、

「あはははは」

「ホホホホ」

と、何がおかしいのか、手をたたいて笑いこけました。

その笑い声が、あまり時ならぬものでしたから、びッくりしたのは、かんたんや螽ばかりではありません。野伏かなんぞのように、芒の根元へ身をかがめていた男が、

「あっ」と言って、のび上がりました。

そして男は、近づいてくる人影を、いぶかしそうに見透かしておりましたが、やがてのこと、牛のように歩き出して、自分からも歩を近づけ、

「次郎じゃねえか」

こう言いました。

「えっ」

「月江様じゃございませんか」

「オオ、誰だえ、お前は」

「野鍛冶の半五郎でございますよ」

そう濁す声で言って半五郎は、アアお父っさんかと澄ましている般若の顔を睨めつけて、

「この小僧め、いい加減にしやがれ。無断で家を飛びだしたまま、どこをホッつき廻っていやがッたのだ。おっ母アを見ろ、おっ母アを。