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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
すると、ワラワラ、小屋の外を、人の足音が流れてゆきます。
その足音の流れもひとしきりで、内窓のひさしに白い星を見出すと、四方の山も一色に黒ずみだして、盆地は夜の底に沈んでゆく。
鐘が聞こえる――湖水の底にでもいて聞くような音響です。
小屋の炉の火はトロトロと赤いしずかな火になっていました、あたりが暗くなるほど、炉のなかの灰が白く、火の赤味がましてくる。
はッと気がついたように、雲霧はその火の色に目をこすりました。見ると、秦野屋も話をやめ、四ツ目屋の新助も膝をかかえたまま、うッとりと、いい気持に居眠っているので、
「お……」
何か言いかけようとしましたが、口に唾液がわいて、物を言うのもだるい気がしました。
そして、ごろりと炉べりに横になって、目をとじる、火の色がチラつく。また、目をあいてみると、秦野屋も横になり新助もそこに寝てしまう様子です。――お蝶は? ……と思ったが、振顧ってみるのも気だるい。
「眠い……」
雲霧はただもう眠くってたまらない。
カアーンと遠い鐘音が聞こえる。
「ああ、さっきの鐘だ」
そう思ううちに、その鐘も、だんだん耳に遠くなりました。