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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

かれらの呼ぶ「山の会堂」では、鐘に集まった人々が、夜の祈祷を終えて、広い一堂のむしろに、すきなことを語り、すきなように足をくずして、拘束なく、くつろいでいる。

その人々に取り巻かれて、おぼつかない日本語をつづり、何か楽しげに話しているのは、黒い布を身にまとったひとりの異国人でありました。

堂の正面には大きな黒い帳を垂れ、切石をたたみ丸木を組み、壇を作ってさまざまな祭器をならべた前に、赤い百目蝋燭がともされてあって、その聖壇の中央に、マリヤの像がほほ笑えんでいます。

と。そのマリヤの上に懸け渡されてある、鳴子仕掛の綱がゆれると、聖堂のすみの銅鈴がガランと鳴る……。

「お。こんなにおそいのに、誰か来たようです。開けてやってください」

黒い裾をひいた異国人の手が、会堂の扉を指さしました。

「山の会堂」を司祭するひとりの異国人は、永い間、切支丹屋敷の牢獄にいた、羅馬の使いばてれんヨハンでありました。

ヨハンはある夜その牢獄から、風のごとき人間の群にすくい出されて、山また山の奥にさらわれて来ました。いうまでもなく、山岳切支丹族のもののやった仕事で、この盆地の開拓は、多くヨハンの知識と見える。