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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「ここは何処?」

「秩父の奥の天童谷という盆地でございます」

「じゃ、やっぱり、漆掻きの男たちに案内されて来た所じゃないの」

「その切支丹村でございます。私はこの夏の初めごろから、この天童谷の司祭者になってくれと頼まれて、ここに住んでいるのでございます。――しかしお姫様、あなたと私と会ったのは、あれから今夜が初めてではございませんね」

「私が甲州へゆく途中で、やはり、こんな深い谷あいで、大勢のものが集まって、祈祷をあげていたのを見たことがあるわ」

「その群のなかに、私の姿は見ませんでしたか」

「ヨハンさん――と、あの時、思わず谷へ呼んだけれど」

「まさかと、お信じなさらなかったでしょう、どう考えても、小石川の牢にいる私が、あんな所に祈祷をあげているなどという理屈はありませんからね」

「だけれど、あれから後、甲府の町で、蜻蛉売りの久助という者から、いろんな話をすっかり聞いていたのだよ」

「アア、久助。あれもこの切支丹村のひとりでございます、あなたを村へ連れてくるようにと私の吩咐けをうけて、甲府へ行ったのでございましたが、日本左衛門に寝込みを襲われて、不憫な死にかたをしたそうで」