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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「おお、それでは、急ごう」
「と仰っしゃって、今からそう意気込むと、山道はすぐ疲れてしまいます。どうせ横道のない間道のことですから、方角さえつけば、息を切って駆けだす必要はございませんよ」と、釘勘は山馴れているので、足ごしらえを直し、万太郎主従もそれにならって、妙法の裾から、東南の山地へ、わけ入りました。
その日の夕刻はゆるゆると、芦ヶ久保の山村に着いて、東光寺という僧房に一泊をたのむ。
それとなく訊ねてみると、一人旅の浪人風の男は、たしかに、自分達より一刻半ばかり前にこの山村を過ぎている。しかし、それから、山伏峠か正丸越えの追分はやがて一里弱にすぎない所で、それから先は、どうしても夜旅にはあるけない所だということも確かめましたから、釘勘は、双者の距離を胸算にとって、すっかり、安心しているふうです。
朝を待って、僧房の芋粥をすすり、焼飯の糧は釘勘の腰につけて、三人はまた芦ヶ久保の山村を立ちました。
山に入るほど、山の深さと秋の深さが身にせまります。すばらしい紅葉の鮮紅も、今では目になれて路傍のものでしかありません。
「オオ」
と、釘勘が叫んだのは、ちょうど山伏峠の上に立った時で、