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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「はははは。それで尾州殿の引籠りでござったか。しかし、無事に手に戻ってまいったとあれば目出度いこと。新春早々の吉事、これで病気も本復であろう」
「就いては、春は例の年始御答礼の勅使に御馳走能がござりまする」
「お、あれは二月じゃ」
「その折には、ぜひまた御使用の栄もある事と存じますし、旁、こういう神品を私人の塵蔵にまかせておきましては、折角の名作もその光を放たず、また何時不慮の事がないとも限りませぬ故、手に戻ったのを幸いに、今後は柳営の御宝蔵に永くお預りを願いたいと存じて持参いたしましたが、如何にございましょうか」
と、畏る畏る顔色を見る。
「鬼女の仮面だけに祟りでもするか、尾州家には、ひどく洞白に懲りられたようじゃな」
吉宗は軽い諧謔にまぎらして笑いました。
まったく拝領品の光栄も、頂戴だけで済むならばよいが、能催しのあるたびに持参して登営しなければならない責任付きの品物などは、義通にとって有難迷惑な光栄に違いはありません。
で、これを機に、将軍家へ返納してしまった方が、肩の荷が下りることだという彼の考えは、明敏な吉宗にもすぐ読めていたに違いない。
それは、彼の任意と認めておいて、さて吉宗は思い出したように、