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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「さて金吾、これで手順はすべて首尾よく行ったが、これからが難問題、夕餉に美味いものでも来たらうんと食べて、宵のうちにグッスリと一寝入りしておくことだな」
さて、その夜からの異変です。
将軍家そぞろ歩きの折の休み茶屋である錦霜軒から、夜になると黒装束の影が二つ、船見山の蔭から吹上の方へ出かけてゆく。
それが毎夜のこと。
昼は錦霜軒の炉べりに寝て、夜になると眼をさましては活動するらしいのです、――徳川万太郎と相良金吾であります。
目的は、ピオの遺跡を探すにあること勿論で、彼が、この城地で最期をとげたものか、或いは捕らわれていたものかは分りませんが、とにかく、千蛾老人の言った、江戸の嵐山というのはここの以外にはありません、また、常人には近づけぬ場所、万太郎なれば行き得る所、と言った事なども、すべてこの吹上一帯を意味するものと見て間違いのないことでありましょう。
それにつけても、今になって惜しくも残念でならないのは、あの時の樟板の図面を、奪われたことでした。
けれど、あれがたとい日本左衛門の手に入ったにしても、それがこの吹上を中心とした図解であったとしたら、彼の力も及ばぬことで、定めし失望したであろうと、その点は安心もし、あとで苦笑を催しました。