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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

……どうだいお千代、この娘は」

「まあ、いい娘だねえ、上玉だよ」

「おれの兄弟分の龍平と懇意だった或るお屋敷の娘さんだから、そのつもりでよく面倒をみてやってくれ」

「アアいいとも。そのうちに、ほかの友達も帰って来るから、すぐみんなと馴れちまわアね。きまりの悪いのは初めのうちだよ」

猫板をチャブ台にして、鶴吉とお千代という年増が、相酌でちびちび飲んでおりますと、この夜更けだというのに、ここの家はそれからが繁昌で、妙な女がぞろぞろと帰って来る。

「オオ寒。姐さん、只今」

「兄さん今帰りましたよ」

「寒い、寒い。今夜はばかみた寒鴉」

一人一人、いろんな事を言いながら、格子の内へ駈けこんで来るのが、どれもこれも、白粉を厚く塗りたてて、凩に吹かれたようなよごれた髪に、性のぬけた安縮緬の裾綿という姿です。

その白粉首が五つ六つ火鉢をかこんだ時に見ると、飛んでもない四十面もあれば、十六、七に足らない小娘もあり、頭の頭巾をとらない比丘尼さんもある。

鍋焼き饂飩の熱いのをフウフウ吹いて食べ終ると、今夜の客はどうだったの、目明しがどうしたのと、お蝶には意味の分らない会話がベチャクチャ交わされていましたが、そのうちにべつの部屋で、お千代を中心に銭の音をさせて、皆も鶴吉夫婦も、それぞれ枕について寝入りました。