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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

これは、いわゆる岡の岡場所と対立して、江戸の風紀を紊している、「船まんじゅう」と俗によぶ売笑婦の巣船でした。江戸ではまたこの種類の売笑婦を「お千代舟」と言っています。

いつの頃か、お千代という眉目のすぐれた売笑婦が、浜町の菖蒲河岸に舟をつないで、嫖客を招くに水上から、

「お千代、お千代」と、啼くように呼んだのが初まりとなって、それから殖えたほかの船饅頭をも、すべてお千代舟とよぶようになったのであると申します。

何せよ、今思い合してみると、あの髪結の鶴吉というのは、売笑婦の置屋であったり、また世間見ずの女を騙かして来るぽん引きと呼ぶ渡世の人間です。――で、お蝶をその道のあばずれ者であるお角に預けて、永く金の絞れそうな、いい客を見つけて今夜彼女に当てがおうという相談が、あったものにちがいない。

そのせいか、お角はだいぶ客の選り好みをしていましたが、そのうちに苫の陰と橋の上とで、何か下相談の出来たらしい様子で、

「お蝶さん、ちょっと待っておいで、すぐ来るから」

と、彼女を置いて、岡へ上がってしまいました。

好色そうな宗匠頭巾の隠居をつかまえて、そこの砂利場の隅で、お角がしきりと何か交渉している声が、お蝶の耳にも、時々、みだらな笑い声に交じって聞こえて来る。