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にっき
日記
宮本 百合子
03 一九一六年(大正五年)
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 81,739 字 · 164 页
七月九日
七月十日
とは異って居る。けれ共同じものが材料としてあつかわれて居るのはたしかである。今言葉になってどうとは云えないけれ共、もう少しよく考え読んで見たら必ず分るだろうと思う。
成瀬正一氏が渡欧するそうだ。この頃、まるで変って来た自分の将来に対して、先んじられる人が一人でも多ければ多いほど、自分の力の乏しいことをなさけなく思わずには居られない。
私の英国行もたしかになって来た。
この上はただ自分の力がつき次第であると思うと、輝かしさに添うた不安や責任がきびしく自分をせめる。
七月九日(日曜)
午後になって本田道っちゃんが来る。仏語の速成をやって居るそうだ。字引きを持って来てくれる。マンドリンの蓋を高井にきいて見たら二円五十銭だと云う。それなら半々にして買おうと云うことになった。夜、食後庭でかくれんぼをやる。見つかったってどうでもないにはきまって居ながら、妙に緊張した、息のはずむ様な心持を感じた。逃げる心理と云うのは一種異って居るものらしい。
七月十日(月曜)
「アンナ・カレニナ」をよむ。アンナは愛すべき女である。レウィンも尊い所を持って居る。とにかく私の感じた事は、彼の中のどの人間でも各自にその尊うべきところを持って居ることである。