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にっき

日記

宮本 百合子

03 一九一六年(大正五年)

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 81,739 字 · 164 页

青空文庫

八月十六日

八月十七日

もう幾年前のだか分らない川島武夫の後日物語に大変興奮して、泣いたり、「まあー」と歎声をもらしたりして居るのを見ると棧敷十八銭の小屋の気分が遺憾なく味われる。

八月十六日(水曜)

坪内先生小此木先生、石川先生へ出す。小此木先生は上州の榛名に行っていらっしゃるとの事、又きっと岡田先生と一緒に行らっしゃったのだろう。坪内先生の所へは、ゆうべ見た女のことを書いてあげる。

石川先生の所へは、どうしても通り一ぺんの時候見舞ほかかけない。手紙でも何でも、そのあげる人によって書けたりかけなかったりするものだ。祖母や高村の婆が、『読売』の「天一坊」を一生懸命によんで、ほんとうに悪智恵たけた男だとか何とか真面目な顔で話し合って居る。

刺戟がなさすぎて、却って不安な様な心持になって来た。

八月十七日(木曜)

この頃自分の内部の情熱に圧迫される様な苦痛を感じる。早く、静かな感じですべてを見て行かれる心持になりたい。その意味で私は二十六七の年配を希望するのである。

久米氏に対してもお互に静かな友愛で交って行きたいともつくづく思う。あれ丈の材のゆたかな人に、いくらかでもつきあえる機会はありながらつき合わないで居ると云うことも辛いけれども、こそっと会ったりしなくなった――出来なくなった自分の心に対して、ある安心も感じる。