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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

木綿以前の事「女性」1924(大正13)年10月、何を着ていたか「斯民家庭」1911(明治44)年6月、昔風と当世風「彰風会講演」1928(昭和3)年3月、働く人の着物「旅と伝説」1936(昭和11)年7月、国民服の問題「被服」1939(昭和14)年5月、団子と昔話「ひだびと」1936(昭和11)年3月、餅と臼と擂鉢「社会経済史学」1934(昭和9)年1月、家の光「家の光」1926(大正15)年2月、囲炉俚談「文学」1935(昭和10)年3月、火吹竹のことなど「知性」1939(昭和14)年4月、女と煙草「ひだびと」1939(昭和14)年2月、酒の飲みようの変遷「改造」1939(昭和14)年2月、凡人文芸「短歌研究」1934(昭和9)年2月、古宇利島の物語「短歌民族」1933(昭和8)年5月、遊行女婦のこと「俳句研究」1934(昭和9)年4月、寡婦と農業「農業経済研究」1929(昭和4)年10月、山伏と島流し「俳句講座」1932(昭和7)年8月、生活の俳諧「第一高等学校講演」1937(昭和12)年12月、女性史学「実践女学校講演」1934(昭和9)年7月、女性史学「民間伝承」1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 页

青空文庫

ただしはまた人生の幸福と死後というものに対する特殊なる信仰が、無意識に今も残っているものか。とにかくいろいろの古風な考え方が、新たな誤れる感情と交錯して、かかる残虐なる決意を導いたことが無いとは言われない。しかもそれらの心理現象の底に横たわる消極的な思い切り、または女の勇気というべきものが、従順無抵抗を本位とした江戸期以来の道徳の制約を受けて、たった一つの「生命」より以外に、その自由処分に委ねられたものが残らなかったということが、もしやこういう情ない進路を指示したのではないか。仮にこの推測が当っているとすれば、その証拠は歴史の上に見つからなければならぬ。単なる或る一つの想像説として棄ておかずに、そのつもりで捜して行けば、うそか本当かは今に必ず明らかになると思う。古い家々の躾けかたには、女子の勇気と胆力とを、ただ死の方面にしか発露せしめないような、わけのわからぬ方針が久しく立っていて、死ぬほどの不幸が家に起こらぬかぎり、烈女の名は世に現われる機会がなく、したがって手本とする前代の婦人の、大多数は剣に伏しているのである。そんな昔の教科書を、よく考えもせずに受け継いだ結果が、思慮の浅い者を何かというと此方へばかり向かわせるのではないか。