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にっき

日記

宮本 百合子

03 一九一六年(大正五年)

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 81,739 字 · 164 页

青空文庫

九月九日

なかなか私共にはかけないものだ。パナマ帽の□のことを考えると妙に皮肉な滑稽を感じて笑わずには居られない。心持が大変楽になった。あんまり毎日暑いので体が悪くなって来たことが自覚される。こんな工合では、正月に書けるかなどとも不安になって来た。伊東忠太氏へ『中公』を送った。

九月九日(土曜)

「鈍色の夢」の参考にもと思って、「処女地」を読んだ。そしてすっかり感服させられた。涙がこぼれそうになった。「その前夜」の中の女性とこの中の女性、ツルゲーネフの書く女性は何と云う尊い強い目覚めた所を持って居るだろう。非常に多くのためになる点を得た。有難いことだ。自分の恋、いつも自分に只苦笑をさせるばかりなあとを残しては消えて行く恋に対して、妙な心持にならずには居られなかった。私自身の又の件と仕様と思う。潔に云わせる言葉の多くが私の頭に一杯になった。「処女地」を読むと、自分の生活ははたしてどこまで真率なものであろうかと云うような疑問や運命とか生・死に対する心持が、一層深い或方向に向って動いて行くようなのを感じる。私は非常に厳粛な心持になって涙がうかんで来た。

九月十日(日曜)