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にっき
日記
宮本 百合子
03 一九一六年(大正五年)
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 81,739 字 · 164 页
〔九月の感想〕
やはりまだ日本はあれを芝居にするだけの腕のないのは勿論、心の準備がない。我々も。
〔九月の感想〕
種々な意味で私には尊い一月であった。外からの刺戟は勿論生れて始めてな位強い有様ではあったれど、心と体は、三月ほど前からたまって居た疲れを休めにいそがしかったのだ。
漸々秋らしくなって来たこのごろ残暑がきびしかったので長い暑さに幾分つかれきった心持が快くひきしめられて行く。それにつれて、こないだ中からかるく起って来て居た種々な疑問や何かが一層はっきり具体的になって来たような感じも得て居る。
正月のものの構想やなにかで、下旬はかなり頭をつかった。けれどもこれから三月の間のことを思うとたまらなくうれしくなる。
夜は長くなる。火は美くしくなり、頭は透明になって来る。少し寒い位の晩静かに考え、書くことの出来ることを思う。けれども、私の絶えざる恐れ、不安は、自分に真の芸術家たるべき態度心の準備が具わって居るかと云うことである。冷やかな夕風にふかれながら、そう云う種類の内省にふけると、自分は小さい可哀そうな自分を見出すばかりである。勿論失望はしない。努力をしようとする決心はどこまでもあり、相当にみとめられて居ることもよろこびはする。