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にっき

日記

宮本 百合子

03 一九一六年(大正五年)

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 81,739 字 · 164 页

青空文庫

十二月十二日

また嫁を貰うのだそうだ。先にとった嫁は、餅を背負わせて、帰してやって仕舞った。そしてもし妊娠して居れば、当人にきいてその覚えがあれば、俺が引きとると云ってやったそうだ。当人にきいて、覚えがあればと云うのが面白い。

十二月十二日(火曜)

夜高村の婆さまが来て、炉ばたで、下らないおしゃべり――あさひやの婆が信玄袋をああ振るのは、体の調子をとるためだと、市次郎が云ったとか、婆さんは、日本橋生れだと自称するとか、赤沢さんの奥さんは月七円ずつ貰って居ながら、月末には無一文になるとか云う話しをして居ると、戸のそとで、誰か人が来た。田辺氏の養子であった。山紫水明な京都の風物が、男の体へ女性の一部分を吹き込んで仕舞ったと云うような体つきをし、言葉をして居る。それと察せらるるほどのひげが鼻の下にちょんぼりと止まって居る。京都を引き払うとき、織業仲間でよこしたと云う金時計を見せた。大変それがうれしいと見えて、しきりに三分おき位に出してはながめて居る。五年の間の命がけの努力は、金時計一つでむくいられて、又そのむくいに満足して居る人の心は、どこまでもあのひげの通りである。