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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「だッて、そうに違いないんですもの。わたしは温かい母親を知りません、世間の娘のような楽しみを知りません、だから、自然に、こんなふうな女にいじけてしまッたんです。私の罪じゃあない、私を生んだものの……」

「まだいうかッ、まだその口をうごかすか」

「いいます! どうせ殺されるなら、私はいいます!」

「悪魔ッ、悪魔」

その声を横にうけて、お蝶が笑ったように見えたので、二官はクワッと逆上しました。そして、思わず刃を走らせると、

「死ぬのはいやですッ」

父の手元を交わして、お蝶は刃をもぎ取ろうとする。

「生かしてはおけない、おまえは、わしの鍵を盗んで、御封庫を破った大罪を犯している」

「知りません、わたしは……」

「だまれッ、まだ罪がある。おまえは仲間の龍平と不義をしていた、そして、自分の罪をなするために、入れ札の時に、龍平の名をさして男を獄門に墜した」

「知らない、知らない。みんな世間の人のうそばッかり」

「いうな、あの血のついた花櫛も」

「あれは私の物じゃありません」

「いくらこの二官が子におろかでも、もうお前にだまされてはおらんぞ。たれも知るまいと思っていようが、おまえと龍平のしていたことや、お前が暗の夜に犯していた罪の数々は、のこらず、あの石室の鉄格子から、ヨハンの目が見ていたのだぞ」