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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「親方、このあんばいじゃ、やつらの船がくるのは夜半か明け方でしょうぜ」

「ウーム、そうかもしれねえ」

「どうします」

「しかたがねえから、そこらで一晩しのごうじゃねえか」

「ちょうどいい小屋がありますぜ、その向うに」

「魚見小屋だな」

「なんです、魚見小屋ッてえな」

「潮色を見て出漁引き漁の貝合図をふく番人のいる所だ。――だれか居るか」

「いねえようです、だれも」

「そこらの、松葉をすこしかき集めてきねえ、中へ入ッて一ぷくやるから」

がらりと、あるという名ばかりの破れ戸をあけて、小屋のうちへ足を入れてみると、これでも潮風をしのいで人の寝るには足るだけの備えがあります。

伝吉が土間の炉へ、松葉や枯れ枝をつみかさねる。

釘勘は腰をさぐッて火打石を擦り、やがて、暗いなかに、トロトロと燃えあがる松のにおいのある火を取りかこんで、

「ははあ、この辺のやつも、だいぶ抜け買い(密貿易)の手伝いを内職にしていやがるな」

と、ぼウと赤い炎のいろに浮き出したあたりの物を、まず一流の鋭い目で見てしまいました。

そこのすすけた壁には、漁具、網、法螺の貝、錨、等のふつう目なれた物以外に、銛や鉄砲――海の武器とも呼ぶべきものまでが、雑然と掛けならべてありました。