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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ところが、ここに。
まだ岬のはなの乱松に陽あしの高い時分から、散り松葉にしっとりと潮気のふくむ岩蔭に腰をおろして、そこから一望にながめられる相模灘をよぎッて、熱海の温泉町、くすみの漁村などへ寄りつく舟を、一艘も見落すまいと目をこらしていた旅の者があります。
きのう網代へついた江戸の便船のうちに、ちらとその姿を見せた目明しの釘勘と、かれが組下の伝吉という男。
――伝吉は、いつぞや、丹頃のお粂と相良金吾とが、護国寺前のつくば屋を去る時、その夜、ある地点までふたりの行動をつけて行ったので、かれらがこの半島の温泉の郷に姿をひそめたことは、職業がら、とうに感づいていなければなりません。
しかし、きょうの半日を、この岬のはなの風にあたッて、根気よく海とにらみ合いをしていたのは、まったく、それとは意味のちがうものであって、
「まだ見えない」
「はてな、きょうは波も穏やかだし、日どりの狂うはずはねえが」
と、何か心待ちにするのか、ついそこで、日の暮れるのをうッかりしていたものであります。
「いけねえ、暗くなって来た……」
海の文色もどッぷりと暮れ落ちると、伝吉は初めて、根を疲らしたようにガッカリとして、