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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「へ、へい……」といったが、まだ不安そうに、

「どうか、ま、まッ平御勘弁を」

「何を勘介してくれというのか」

「何しろ、今日は半年ぶりに、伝馬牢から出たばかりなんで、へい、それで仲間のやつが、一杯祝ってくれた晩なんですから、どうか、お目こぼしを願います」

「ふウむ、では察しの通り、貴様は小泥棒だな」

「左様で」

「顔を見せろ」

「どうかお慈非に一つ……。まだ牢から押ッぽり出されて、家にも帰っておりません。それをまた、ここから逆戻りしましては、女房や子が嘆きます」

「まだわしを役人だと思ッているのか、そう拝むな、拙者は不浄役人や手先ではない」

「へ。では、お役人様じゃないので」

「ウム、少したずねたい事があって呼び止めたのだが」

「ヘ……ヘイ」

「貴様、日本左衛門の手下ではないか」

「よく御存じでいらッしゃいます。まッたく、そうなんで、ヘイ、嘘は申しません」

「なんという」

「へ?」

「そちの名はなんと申すのか」

「率八というんで」

「率八か」

「お人よしの率八というんで」

万太郎はつかんでいた襟髪を放しました。

そして、つらつらこの小泥棒の顔を見るに、なるほど、愛嬌のある憎めない顔つきをしております。