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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

最前から、噴き出しそうになる可笑さをこらえていた万太郎、終りの一句に、思わず衝立の横からうしろをのぞきました。

ははあ、これはやはり日本左衛門の手下か、もぐりの鼠賊であろう。

万太郎はそう察しました。

間もなく勘定を払って、彼等は、いい機嫌な足どりで「でんがく」の軒先を出て行く。

万太郎も、田楽屋の小女の景気のいい声をうしろに聞き、早速、そこを飛び出して、ピタピタと三人の影について歩く。

辻行燈の明りを交わして、ほの暗い葉桜の横丁。

口三味線に端唄かなんぞを合せて、千鳥足にもつれてゆく三人のうしろから、

「これ、ちょッと待て」

と不意に声をかけると、ギクとして振向いた六ツの目が、その姿を凝視するなり、

「わッ」

コマ鼠のようにキリキリ舞して、馬場の土手を飛び越えました。

二人はあざやかに逃げ去りましたが、最後のひとりは戸惑いして、土手の棘に首を突ッ込み、まごまごしている様子なので、

「これッ、待てと申すに」

ずるずると引きずり降ろすと、あわれやこ奴、唖か片輪か、なんにもいわずペタリと坐って、両手を合せて拝んだものです。

「は、は、は、は」と万太郎は笑って――「あわてるな、身は奉行所の役人ではない」