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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「そこまで存じているなら何も隠さぬ。いかにも『ばてれん口書』の一帖は、万太郎様に取って命から二番目の物だ。それが売りに出るとは耳寄りである。いッたい、どこへ行ったら買い戻せるだろうか」

「市でございます」

「市?」

「へい、そこへ、お連れ申しましょう」

「かたじけない。では、骨董屋の道具市だな」

「なアに……」と釘勘は前後を見廻して、

「あなた方は聞いたこともございますまい、くらやみ市とも盗ッ人市ともいう、おそろしい、世間の裏の盛り場なんで……」

目明しの釘勘がどういうわけでそこへ自分を連れて行こうというのだろうか?

金吾も、これは多少疑わないでもありませんでしたが、深くたずねてみると、かれは、江戸の盗賊や掏模やけいず買いどもが集まる、今日の暗やみ市を機会に、一網打尽、大がかりな手入れをやる気組らしいのであります。

目明し道徳とでもいおうか、釘勘は、万太郎や金吾の困惑を見て、手入れの騒動となる前に、あの洞白の面箱を何とか無事に被害者の手に返してやりたいと思いました。で、もしその品が今日の市に出たら、値にかまわず買い取って行くように――と途々あるきながらも金吾に心得をさずけている。